emergent call record
事件記録簿 / Jichi Med Univ(JAPAN)
自転車自爆老婆
現場 1車線国道
時間 2020年 昼間
・発見

交通渋滞してる郊外片側1車線。
自動車で低速走行中に、路肩でうずくまって座ってる老婆と自転車を発見。
周囲には1名通行人が立ち止まっている。自分の自動車をとめて向かう。
・処置
左手で右腕を保持し、痛がって動かせない様子。屈曲・回内位。
みたかんじ、自転車からの転倒時に鎖骨なり上腕骨が折れたのだろう。橈骨や、他の骨折もあるのかもしれない。
会話から、軽い痴呆を感じる。服装などから、その痴呆は、以前からあるものかな、と類推する。
レベルが下がってるわけではなさそう。触診すると、脈は早めだが痛みのせいだろうか。
ちかくの通行人は初動の緊急通報はしたばかり、とのこと。
救急隊現着までのあいだに、老婆と会話をしながら、なるべく安心してもらうように心がける。
持ち物を確認し、病院のもっていくものを確認する。本人同意で財布のなかから、
保険証・診察券をみせてもらって、かかりつけ医などの状態を確認する。救急隊への搬送先が変わるから。
すこしまえにかかった市民病院があるので、後ほど到着した救急隊には、その旨をつたえると、
そこから転送先の打診をはじめてくれた。こういう時の救急隊のタスクは、「転送先を探すこと」につきる。
み寄り家族を聞くと、夫をなくして、子供は遠方で一人暮らし、と。
典型的な、現代の独居老人。買い物も自分で行っていて、転んで右手をついて骨折したようだ。
このあと入院して、さらに痴呆がひどくなり、退院困難になるのかな、とか、考えていた。いまの日本って感じ。
のちほど現着した警察官はとにかく、「自爆事故であって、自動車との接触じゃないこと」を
確認している。たしかに、ひき逃げかどうかじゃ大違い。自爆とわかると、興味がなくなった様子で
調書も作らなかった。
・反省と使える用品探し
救急車を見送ったあと、ふと、「自分が三角巾固定をしてあげられてなかった」ことに気づく。
実際、このあと病院で、レントゲンや頭部CTなどの検査をしたところで、だいたい、
「高齢なので外固定」でおわるはず。だったら、最初にしてあげるべきだった。
病院で処置されるまでの間の、しんどさはだいぶ違ったし、できる医療行為はそれしかない。とても後悔。

警視庁警備部の画像ではこのような固定をすすめてる。長そでTシャツをつかっている。
でも、こんなにうまくまけるのか、とか、汎用性は?、とか、思うけど、現場でこれができたら神様。

もう少しいろいろ使えるものがある。amazonで2000円くらいで買える民生品。
骨折スプリントロール、などの名前でうっているウレタン+アルミのロール形状。どこにもまける。
かるく手でまげれば、大概の場所の固定ができる。
固定にともなうコンパートメント症候群(過剰な固定で血が通わなくなる)を防止してくれるし、
これ自体はとても軽く、登山などにももっていける。とにかく固定しないと下山できないんで。。
EUの軍隊で開発されたものが元ネタようだが、日本の医療者でこれの存在を知ってる人はほとんどいない。
戦場では、これを滅菌処理したものとか、包帯とセットで滅菌パックにされてるものが使われてる。
地雷や弾幕破片などでケガしたときに、パックを開封・服の上からまきつけて、前線を離脱する。
後方の軍医のところまで、生きてる状態でつれてかえるための知恵らしい。
湾岸戦争ではたらいていた米国の軍医さんと話をしたことがある。形成外科だったが、現場の話はひどかった。
生きてるかどうかわからない状態でとりあえず運んできて、とりあえず縫って止める。そのあと様子をみる。と。。
地雷で吹き飛ばされた米軍兵は報道以上におおく、元気に帰ったところで帰国後のメンヘルもひどいみたい。大変だ。
この人のケースを、現役外科医に聞いてみた。「先生なら固定できますか?」ときくと、「自信がない」といわれた。
じゃあ医療者ってなんなんだろう、って二人で考えてしまった。
とにかく事故現場では、臨機応変が必要で、後悔ばかりが残る。できる限り、平常時に準備するしかない。