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emergent call record
事件記録簿 / Jichi Med Univ(JAPAN)
image00 自損エアバッグ全開老女

現場 思川ぞい 信号のない交差点
時間 2023年 17時

発見と解決



いつものように運動で自転車をこいでると、河川にかかった田舎道の橋で渋滞が発生している。
夕方とはいえ交通量が少ないところ。違和感をもちつつむかうと、現着した警察官+パトカーとほぼ同時に到着。
事故車両で通れずに渋滞が発生している。警察官が力技でこわれた事故車両を移動している。

信号のない交差点で、80歳のおばーさんが単独自損事故。
右折しようとして、そのまま橋の根本、欄干に左前輪をヒット。
自動車はエアバッグが全開。運転席、助手席、カーテンサイド、後席、すべて開いている。
左前輪は完全にドライブシャフトが曲がっていて、アームが露出。
かなり長いタイヤのブラックマークがついている。


事故ですね。医者です、何かできることはありますか。
ああ、たすかります。自損事故です。

おばーさん、どうしたのー?
いやー、ぼーっとしてたら急にぶつかってねー。ゆっくりいったんだがねー。

(小声で)いやあ40km以上でてますねえ、これは。。

からださわっていいかなー?いたいところある?
ちょっと口の中をきったくらいさあ。
口のなかみせてー、あーんしてー。

たしかにバイタルは問題なく、意識もクリア。自立もしっかりしている。
エアバッグすごすぎる。。。。

そのうちに、家族(娘)がくる。普段から、ほとんど投薬されてなくて健康の方のようだ。痴呆もなさそう。
事情を説明し、落ち着いてもらう。さて、ここで問題は、「救急車をよぶかどうか」だ。
警察官も一番、それを気にしている。

というと、「そんなの呼んだ方がいいにきまってる」という人が大半だろう。
いかにも建前では、そうだろう。無責任な人はそういうだろう。

でも、現実は
    ・時間外救急で、病院を探し診察するだけでも、本人・家族・行政ともにそれなりの負担になる。
    ・うけた病院は結局、レントゲンや頭部CTを撮影したとしても、高齢者なので所見がわかりづらい。
    ・病院でも、「おおきなことがおきてない」確認をして経過観察することになる。
    ・老人が入院すると、それだけで、せん妄、痴呆、骨折などのトラブルになることがある。
    ・かかりつけがない人なので、診察歴なしで、老人が救急診察してもわかることはとても少ない。
    ・救急車を呼べばそのあとの警察の事情聴取が後日になる
    ・その場で救急車を呼ぶことと、保険や刑事・行政・民事処理は一切関係がない。

むしろ、実際に大切なのは
    ・ハイリスク患者ではないことの確認(ワーファリンのんでます、みたいな)
    ・家に帰ってから様子をみてくれる人がいること。その人への引継ぎ


実際に、やまほどの事例を経験している警察の人も、「家に帰ったほうが本当はいい」と
わかっているが、立場上はっきりと言えずにいる。ぼくに、それをずっと相談したがっている。
僕は、はっきりと指示を出すことはもちろんしない。ただ、こういうのは会話の持っていきかた次第だ。
短い臨床経験でもそれくらいはできる。

家族や本人とゆっくり話をし、落ち着いてもらって、最終的に家に帰る決断をしてもらった。
普段はなれて暮らしている家族(娘)には、今晩は一緒にいてもらうように指示した。
今後、運転を続けるのか、という話もすることになるだろう(それを諭すのは警察の仕事だ)。

こういうときに、行政に電話をかけるだけ、できることもせずに誰かに押し付けても何にもならない。
実際に必要なのは、会話や、安心させるボディランゲージ、暖かい衣服、水、だと、毎回思う。


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